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災害事例を「わがこと」として学び避難行動につなげる vol.4

今回の専門家

室田 哲男 氏
政策研究大学院大学
防災・危機管理コース 特別講師

実際の避難行動を引き出すための5つの方策

広島市が行ったアンケート調査の結果を踏まえて、実際の避難行動を引き出すための方策を5つ挙げてみたいと思います。第一に、日頃からのリスクコミュニケーションです。リスクコミュニケーションとは、リスクに関する情報を、行政や住民等の関係者の間で共有し、相互に意思疎通を図ることです。いざとなった時に、住民が周囲の状況や防災気象情報に基づき、自ら避難を判断し率先して行動できるようにするためにはどうすればよいか?そのためには、日頃からのリスクコミュニケーションにより、自分自身の住む地域の危険性を知る、また、避難場所や避難経路、災害時にとるべき行動などを知ることが出発点となります。こうしたリスクコミュニケーションは、一度限りではなく、継続的に行うことが重要です。

第二に、実践的な避難訓練や「 地域防災マップ」づくりです。実災害を想定した実践的な避難訓練で、避難行動を実際に体験することにより、先を見越した行動につながることが期待できます。また、自主防災組織等が中心となって、実際に町歩きをしてみて、避難経路や避難場所、危険箇所等を住民一人一人が実地で確認し、それを基に「地域防災マップ」を作ることも有効な方策と言えます。

第三に、隣近所で声をかけ合っての避難です。身近な人等による声かけや周囲の人の動向が、避難するかどうかの判断に大きな影響を与えていることが分かりました。このため、隣近所で声をかけ合って避難することや、自主防災組織のリーダー等が周囲の人に声かけを行うことが、避難行動を引き出すための有効な方策であると言えます。

第四に、消防団員による避難の声かけや避難誘導です。自主防災組織の取り組みに合わせて、消防団員による声かけも避難行動につながる有効な手段であると言えます。しかしながら、多くの地域で消防団員の数は減少傾向にあります。特に大規模災害時には、マンパワーが不足することが想定されます。このため、大規模災害時に限って出動し、活動する大規模災害団員を確保し、避難の声かけや、高齢者の避難支援などを担ってもらうことが考えられます。

第五に、「楽しい避難」です。避難する際のリスクを懸念する人が多いのですが、避難場所への移動のリスクを低下させるためには、災害発生の危険性が高まる前の早いタイミングで避難することが必要になります。早期避難を促すためにも、身近で安全な場所に避難場所を設置したり、トイレの改修などによって避難場所の居住性の向上を図ったりすることが望まれます。加えて、避難場所で茶話会を開く、子どもたちと交流するなどの「楽しみ」を作ることによって、避難場所への避難の抵抗感が少しでも軽減されることが期待できます。

見送りより空振り

先ほどお話しました、避難行動を引き出すための方策には、「これさえあれば大丈夫」というような決定的なものはなく、また目に見える成果が直ぐに上がるものでもありません。しかしながら、平成30年7月豪雨災害でも、過去の災害経験を踏まえ、地域住民が自主的な防災活動に継続的に取り組むことによって、避難行動につなげた事例が多々見られました。地域の実情に即したやり方で、粘り強く取り組みを継続させる必要があります。

そして、何よりも大事なのが一人一人の「自分の命は自分で守る」という心構えと、先を見越した行動です。

土砂災害から命を守るには、安全な場所に避難するしかありません。土砂災害警戒情報が発表された市町村内で、危険度が高まっている詳細な領域は、気象庁がホームページ上で発表しているキキクルで確認できます。キキクルでは、大雨による災害の危険度を5段階に区分し、それぞれ色分けして地図上に表示されています。PCやスマホで、誰でも、お住まいの場所などの数時間先までの危険度が確認できるようになっています。

キキクルでは、警戒レベル4、すなわち紫色が表示された場合、あるいは地元の自治体から避難指示が発令された場合は、災害のおそれが高い状態ですので、イエローゾーンやレッドゾーンにお住まいの方は、必ず避難していただきたいと思います。避難する先は、指定緊急避難場所、安全な場所にある親戚や知人の家、ホテル等です。

さらに、大雨特別警報が発表された場合や、地元の自治体から緊急安全確保が発令された場合は、警戒レベル5に該当し、災害が発生したか切迫した状態になります。この場合、立退き避難することがかえって危険な場合がありますので、高い場所への移動、近くの堅固な建物への退避など、直ちに安全確保をしていただきたいと思います。

アメリカには、危機管理のリーダーの心構えとして、プロアクティブ(先を見越したという意味)の原則というものがあります。

第一に、疑わしいときには行動せよ
第二に、最悪の事態を想定して行動せよ
第三に、空振りは許されるが見送りは許されない
の3つです。

避難するかどうか迷った時は、最悪の事態を想定して、空振りを恐れず行動していただきたいと思います。避難指示に従って避難したけれども、結果として災害が起こらず空振りになったとしても、オオカミ少年と行政を非難するのではなく、「空振りで良かった」と捉える意識が、住民と行政の間で共有されることが望まれます。

リスナーの皆さんは横浜市などにお住まいの方が多いかと思います。この地域では近年大きな災害は起きておりません。けれども、いつ広島のような災害が起きるか分からない状況にあります。

したがって、広島の事例など、他の地域の事例を学び、それを「わがこと」として捉えて教訓を導き出し、想像力を養っていただきたいと思います。そして、先を見越した行動として、「空振りは許されるが、見送りは許されない」ということを肝に命じ、早め早めの行動をしていただきたいと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。