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命を守るための「子どもの救命法」 vol.3

今回の専門家

日色 幸生 氏
フリーランス救急救命士

同僚を救った「10分間の心肺蘇生法」

これは私が救急隊時代に経験した1つの救急の事案なのですが、「成人男性が倒れて意識がない」という救急の通報が入って、その現場に出動したのですが、この現場は管轄している消防署ではなく、その隣町の消防署が管轄する場所だったので、救急車が到着するまでにいつもより時間がかかり、通報から10分から15分ぐらいかかる場所でした。私が救急隊として現場に着いた時にはもう心肺停止の状態でしたが、恐らく仕事中に急にバタッと倒れて意識がなかったということなので、恐らくその瞬間からもう心肺停止の状態だったというふうに考えられます。

でもその現場に居合わせた同僚の方が、救急隊が到着するまでの10分間、ずっと心肺蘇生法をしてくれていました。その時は、人工呼吸はせずに心臓マッサージだけでしたが、それをずっと10分間続けてくれていたのです。私が実際に到着してその方を見たところ、まだ心肺停止の状態でしたので、すぐに交代して心肺蘇生法を施したところ、その1分後に心拍が再開し、蘇生しました。すぐに病院に搬送して、その搬送中になんと意識が回復して、普通に会話ができるぐらいになりました。

通報してから救急車が来るまでの、この10分間に心肺蘇生法、胸骨圧迫をやってくれたということが、その方の命を助けました。最初の処置が本当に決定的なことになりますので、その現場にいる方がすぐにやるというのがとても大事になってきます。それをすごく印象付ける、記憶に残る救急の事案でした。通常ですと、急に誰かが倒れても、どうしたらいいのか分からないと思います。ですので、普段からそういうことを意識しておく、救命講習などを受けておく、そして学んだことをいつもできるようにしっかりと落とし込んでいくということがとても大事になってきます。

先ほど、お子さんの場合についてもお話ししましたが、大人の場合でも同じです。呼び掛けて反応がなかったら119番をする、そして呼吸の確認をして呼吸がない、もしくはしているかどうか分からなければもうすぐに心肺蘇生法を開始するということが大事で、それが本当に一人の命を救うかどうかを分けることになります。

心肺蘇生法 ~間違ってもいいからまずやる~

事前に心肺蘇生法の講習を受けていたとしても、緊急な状況において、頭の中が真っ白になったり、習ったけれど本当にこれでいいのかなと不安になってしまってちゅうちょしてしまう場合がよくあるのですが、一番いけないのが「何もやらない」ということです。やらない時間が長くなればなるほど蘇生の確率が減っていくということなのです。間違っても大丈夫です。やるとやらないでは、やらない方が圧倒的に良くないことなので、多少間違ってもやることによって蘇生の確率というのは上がっていきますので、勇気を持ってやっていただきたいと思います。

心肺蘇生法は、厳密にいうと胸の真ん中にある胸骨という縦に生えている骨の下半分を押すという形なのですが、大体目安としては乳首と乳首を結んだ線の真ん中、というふうに覚えておいていただければいいかと思います。ただ厳密にそこが押せなくても、多少ずれてもやらないよりはやったほうが圧倒的にいいので、「やる」ということを勇気を持って実行していただければと思います。そして、この圧迫は、1分間に100回から120回押せるペースで押していきます。

これはどのぐらいのペースかイメージしにくいと思うので、まず、アニメのアンパンマンの主題歌、「そうだ恐れないでみんなのために」という歌を思い出していただければと思います。あの歌が1分間に100回のリズムですので、アンパンマンの主題歌のリズムか、少し早いぐらいのリズムで押すのが適切な胸骨圧迫、心臓マッサージのリズムになります。

胸骨圧迫、心肺蘇生法とはちょっと話がずれるのですが、子どもの場合、喉にものを詰まらせてしまって呼吸ができず窒息することが、事故としてとても多いです。これもすごく緊急性が高いので、その場で処置をしないといけないのですが、その際には、簡単に言うと一つ方法として「背中を思いっきりたたく」という方法があります。この方法もこんなに強く背中をたたいて大丈夫なのかなという不安感があって、実際現場で強くたたけないということがあったりもしますが、物が出なければ子どもが窒息して死んでしまうので、間違ってもいいので覚悟を決めて思い切りたたくことが重要です。

実際救急隊としては、なかなかこの方法ではやることがありません。なぜかというと119番通報した時点で窒息している場合は、私たちが着いた時にはものが取れているか、心肺停止になっているかのどちらかなので、この方法を私たちがやることはなかなかないわけです。以前に仕事とは別に、自分の娘があめ玉を詰まらせたことがあって、その時にこの方法を思いっきりやりました。ただプロの救急救命士でさえ、本当にこんなにたたいても大丈夫かなとちょっと不安になりましたが、思いっきり背中をたたいたことで、その時は無事にあめ玉が出て助かりました。

救急救命士の自分でも不安になったので、一般の方が自分の子どもを窒息解除のために、強く背中をたたくというのは結構ハードルが高いことなんだとその時に実感しました。自分自身の経験からも、子どもが喉に何かを詰まらせて窒息しているときには、それをやらないと子どもが死んでしまうということをまず考えて、本当に思いきり背中をたたいてくださいと強く皆さんにお伝えしたいです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。