に投稿

災害事例を「わがこと」として学び避難行動につなげる vol.2

今回の専門家

室田 哲男 氏
政策研究大学院大学
防災・危機管理コース 特別講師

災害対応の検証の重要性

災害を経験した地域では、災害対応を振り返って検証を行うことが重要です。災害対応では完璧な対応というのはあり得ず、必ず何らかの問題点があるはずです。検証を行って、課題を明らかにすることで、今後の防災対策に生かすことができます。

大規模災害の場合、多くの関係者が様々な立場から災害対応に当たることになるため、 関係者の一人一人が各自の経験に基づいた問題意識を持っているものと考えられます。しかしながら、その一人一人の経験や知見を集めて、総合的・客観的に検証する作業が行われなければ、災害対応の実態を明らかにはできません。また、貴重な経験や知見が個人レベルで断片的に散在するだけの状態となってしまい、将来に向けた教訓として共有することができなくなります。

災害対応の検証作業は、担当者にとって自分たちのやった仕事のあら捜しをされるようで、心理的な抵抗もあるかもしれません。検証は「誰が悪かったのか」という犯人捜しではなく、「何があったのか」「それはなぜなのか」について、できる限り客観的な事実を明らかにし、これを分析して教訓を導き出すことが重要です。ある地域で起きた災害は全国どこでも起こり得ます。その教訓を他の地域も共有し、防災対策に生かしていくためにも、しっかりとした検証が必要となります。

土砂災害は全国どこでも起こり得る

他の地域で起きた災害の教訓に学ぶということで、これから広島の土砂災害の事例について紹介しますが、その前に土砂災害の特徴や対処方法についてお話ししておきたいと思います。 土砂災害は、大雨などに伴う崖崩れや土石流、地すべりによって発生する災害です。ひとたび発生すると、すさまじい破壊力を持つ土砂が、一瞬にして多くの人命や住宅などを奪ってしまう恐ろしい災害です。

崖崩れが発生しやすい急傾斜地や土石流が発生しやすい渓流など、土砂災害の危険性が高い区域については、土砂災害防止法という法律に基づいて、土砂災害警戒区域(いわゆるイエローゾーン)に指定されています。また、そのうち危険性が著しく高い区域については、 土砂災害特別警戒区域(いわゆるレッドゾーン)に指定されています。

全国ではイエローゾーンが約67万8千か所、レッドゾーンが約58万か所指定されており、土砂災害は全国どこでも起こりうると言えます。横浜市でも、イエローゾーンが2,398か所、レッドゾーンが2,060か所、川崎市でも、イエローゾーンが750か所、レッドゾーンが552か所指定されておりますので、決して他所事とは言えません。イエローゾーンやレッドゾーンがどこにあるのかは、市のホームページ上のハザードマップで示されていますので、自分のお住まいの場所の土砂災害の危険性について確認してみて下さい。

事前の避難行動が難しい土砂災害

土砂災害はひとたび発生すれば、大きな人的・物的被害をもたらしますが、一方で、事前に安全な場所に避難すれば命を守ることができます。しかしながら、災害の発生予測が難しいため、自治体にとって避難指示などを発令するかどうかの判断が難しく、また、住民にとっても、事前に避難するかどうかの判断が難しいという問題があります。このように、土砂災害は、事前の避難行動などの対応が難しい災害であると言えます。

豪雨による土砂災害発生の危険度を伝える情報として、土砂災害警戒情報があります。ニュースなどの災害報道で出てくるので、お聞きになったこともあるかと思います。土砂災害警戒情報は、大雨による土砂災害発生の危険度を降雨量に基づいて判定するもので、災害の危険が迫った時に発表されます。しかしながら、この土砂災害警戒情報が発表された時に、実際に災害が発生した割合、すなわち的中率は数%位で、大半が空振りになります。このため、市町村にとって、土砂災害警戒情報が発表されても、空振りが多いので、避難指示の発令を躊躇してしまう、また、住民にとっても空振りが続くと今回も大丈夫だろうと考えてしまい、避難行動を取らなくなってしまう傾向があります。

一方で、実際に災害が発生した時に、土砂災害警戒情報が発表されていたケースの割合、すなわち補足率は約75%で、見送りは少ないと言えます。例え、避難して空振りになっても、見送りをして避難せずに被災してしまうことは絶対に避けなければなりません。土砂災害警戒情報は、土砂災害の危険度を示す唯一の情報ですので、これが発表された場合は、市町村は避難指示発令の判断を、住民は避難の判断をする必要があります。

広島市では土砂災害が繰り返し発生

広島市では平成の間に3度も大規模な土砂災害に見舞われ、甚大な被害が発生しました。一度目は平成11年6.29豪雨災害、二度目は平成26年8.20豪雨災害、そして三度目が平成30年7月豪雨災害です。

なぜ広島市内で土砂災害が繰り返されるのか?その要因の1つとして、市内には平野部が少ないため、市周辺部の丘陵地帯で山腹まで宅地が広がっていることがあります。そして、その地盤の多くは 表面が風化しやすい広島花崗岩となっており、地表に近い表面には、「真砂土」と呼ばれる砂のような土が堆積しています。この「真砂土」は水を含むと脆くて崩れやすく、強い豪雨により大量の土砂が流れ出し、土石流やがけ崩れなどが起こりやすくなっています。このため、広島市の丘陵部の宅地では、土石流やがけ崩れのリスクが高く、市内にはイエローゾーンが7,670か所、レッドゾーンが7,122か所もあります。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。