に投稿

災害時に備えるトイレ vol.5

今回の専門家

山本 耕平 氏
株式会社 ダイナックス都市環境研究所
代表取締役 会長

日本トイレ協会の「災害とトイレ」

日本トイレ協会が出版した「災害とトイレ」という本は、いくつかの柱で作ってあるのですが、1つは過去の災害の時にトイレがどうだったかということを、これは現場で経験した人たちに書いていただいています。特にその中で、障害者の当事者の方が、「トイレが大変だった」というような自分の体験談も踏まえて書いていただいていますし、ジェンダーの問題も含めて、ただトイレが使えればいいということではなく、やはりトイレを使うにあたって、いろいろな問題もありますし、問題を抱えている方もいらっしゃるので、そういう方に対してどう配慮すべきかというようなことも含めて、現場の過去の災害の時の教訓をまとめています。

2つ目は、自治体や国の今の政策の現状や、自治体がトイレの計画を作る際に、こういうことを踏まえて作ってほしい、こういう項目を入れて作ってほしいということを政策的な面から私がまとめています。それから3つ目は、われわれがよく知らない、仮設トイレというのはどういうものかということが書かれています。今は女性が働きやすいようにということで、きれいで快適なトイレも随分出てきていますけれど、実際そういうものがどうやって作られて、どうやってレンタルされて、それを誰がどうやって運んでいるのかというような、多分大方の人は知らないことを、業界の方に「仮設トイレの現状」ということで書いていただきました。特に、仮設トイレを運んでくるための現状として、運転手もなかなかいないし、作っている工場が日本全国にあるわけではないので、全国に運ぶとなると非常に大変だという話なども書いています。

それからトイレの自助と共助と公助に関して、特にマンションのトイレについて、断水になった後、災害時にマンショントイレをリカバリーするためにどういうところに注意をして、どうしたらいいかということも書いてあるので、全体として、一つは災害トイレの課題や政策、取り組みの動向、もう一つはマニュアルとしても読める内容になっています。

いろいろな方にこれを読んでいただいて、「こういうことを自分たちはやらないといけないんだ」とか、「こういうことが大事なんだ」ということが分かっていただけるような、そういうマニュアルとしても使っていただけるように作ってみました。

この本の中に面白い情報として、コラムとして、警察とか消防のトイレの話もちょっと書いていただいています。これも皆さんあまり知らないことかと思います。消防車のトイレってどこにあるのかご存じですか? 火事の現場に行って一生懸命消火活動されている、あるいは人命救助をやっていらっしゃる消防士の方もトイレが必要です。司令車の中にはあるらしいのですが、とてもそんなものじゃ足りないので、最近はトイレ専門の車も作られた自治体もあると聞いています。自衛隊は基本的に全てが自己完結できるシステムになっているのですが、消防や警察というのは、必ずしも全部そういうふうにはなっていないので、その辺もこの本の中に面白い話がいくつかありますから、楽しんで読んでいただければと思います。

災害へのトイレの備え

最初に私の防災に関する経験、原点が阪神淡路大震災だということを申し上げました。それから、いろいろ良くなったといいますか、いろんな取り組みも進んできました。防災のアイテムも、特に携帯トイレとかそういうようなもの、あるいは仮設トイレも少し快適性も向上するとか、個々の対応はだいぶ進んできたような気もします。阪神淡路大震災から27年たって、状況が随分変わってきているのが建物の耐震です。やはり当時は住宅の耐震というのがすごく大きな問題だったのですが、今は、東京などはすごく良くなっていて、ほとんどの方が耐震性のしっかりしたマンションにお住まいで、特にタワーマンションも増えていますけれど、そういうのがこの間の大きな違いだと思います。

そうなると「トイレは本当に大丈夫か」ということが気になります。今までは自治体の政策も避難所の仮設トイレに重点が置かれてきて、トイレの自助まではなかなか、政策として手が回っていない状況です。自助ですので、自分たちがやることですから、まずタワーマンションにお住まいの方は本当に深刻に考えていただきたいと思います。タワーマンションは、簡単につぶれませんのでみんなマンションの中で避難することになりますが、マンションの場合は、例えば停電すると水がポンプアップできないので、断水してしまいます。それから仮に下水管に被害が出ず、大丈夫だったとしても水がないとトイレは流すことができません。

そうするとマンションの中で1週間とか10日とか、ある意味で籠城しないといけなくなるわけです。その時にトイレどうするのということですが、避難所まで行けますか? 行けないですよね。一つはマンションとしても備えておく必要がある、例えばマンションの敷地の中にマンホールトイレを作っておいて、いざというときはテントを張ってすぐに使えるような対応をするというのも必要な対策の1つですし、マンション全体で携帯トイレを備蓄しておくとか、そういうことも考えておいていただきたいと思います。何よりもそれぞれのご家庭で、トイレについてきちんと考えておく、備蓄しておくということが必要です。

今はいろいろな製品が出ているので、試しに使っていただいて、やっていただくといいと思います。家の中の防災訓練で、一番重要なことかもしれませんので、ぜひトイレの自助ということもしっかり考えて、10日分は備蓄をしておいてください。便器自体が壊れなければ、便器の中に袋状の携帯トイレの袋を押し込んで用を足して口を縛って保管することになりますが、最近はいろいろ臭気が出ないようなものとか、腸詰型の袋でキュッと便器で口を封じるものなど、いろいろな製品も出てきているので、いろいろ見比べながら、ご家庭できちんと備蓄をしていただく必要があると思います。どうぞ災害時のトイレ対策についてもしっかりと備えるようにして下さい。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。