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今回の専門家
山本 耕平 氏
株式会社 ダイナックス都市環境研究所
代表取締役 会長
避難所で必要なトイレの数
阪神淡路大震災の当時は、避難所にトイレがたくさん配られた所もあれば、ほとんど届かない所もあったり、仮設トイレの数なんかも当時どれぐらい配置するのが適切かということもよく分かっていませんでしたし、どこにトイレがいくつ置いてあるかも把握できていませんでした。トイレに困るので、いろいろな人がつてを頼って、建設現場などからトイレを提供してもらったりしていましたので、どこにいくつあるのか全く分からない状況で、僕らが各地域を回って台帳を作って市役所に報告をしました。
場所によっては、利用者があまりにも多すぎて、清掃や汲み取りができなくて、外はきれいでも中がものすごく汚くなっているトイレがあちこちにあって、せっかく置かれたトイレも使えないものがあったり、やはりいろいろソフト面の管理などにも、随分問題がありました。このような未曾有の災害で、避難所も神戸市内だけで600カ所ぐらいあり、何千人という人が避難してきた小学校もあったぐらいですから、そういう意味で言うとパニックのような状況が起きていたのだと思います。
われわれは発災から1週間から10日ぐらいたった後に調査に回っていますので、直後の状況は分かりませんが、話に聞くとすごく大変だったということです。避難所に行くと、お年寄りの方がみんな寒い体育館の出入り口の近くにいらっしゃいました。これはやはりトイレが近いからです。僕らも飛行機などに乗るときはトイレに行きやすい通路側を選んだりしますが、そういうことと同じです。あの当時はまだ寒かったので、非常にびっくりしましたが、そういうことも大事です。
とにかくいろいろなことを阪神淡路大震災の時に経験をして、「阪神大震災トイレパニック」という本にまとめました。その後、災害トイレに関するシンポジウムなどもやりました。
それがその後の災害トイレ対策の基礎みたいになっています。その時僕らが神戸市で調べた数値から、「避難所に大体どれぐらいのトイレがあればいいんだろうか」ということを考えて、大体避難者の方100人に1つトイレが配置されるととりあえず何とかなった、70人に1つあるととりあえず大丈夫だという数字を割り出しました。これはそのときの経験にもとづく数字ですが、避難所のトイレを考えるときの目安になりました。現在は、国の方では、50人に1つという基準を示すようになっていますけれど、これは「スフィア基準」という国際的な人道支援の基準にもとづいています。100人に1つだと、一日に4~5回トイレに行くとしたらとても足りないと思います。
熊本地震の時は、車の中に避難される方が随分いて、エコノミークラス症候群が懸念されました。災害の直接の被害ではありませんが、関連する被害として、トイレに行けないことが原因で病気になったりもしますので、災害時のトイレ対策は非常に重要な課題です。
災害時のトイレ事情
阪神大震災はもう随分昔の話になってしまいましたが、あの当時は、神戸市内は水洗トイレがかなり普及していたということを申し上げましたけれど、全国的には下水道が普及の途上で、まだまだ汲み取りのトイレが多くありました。汲み取りのトイレというのは、実は水害が発生すると大変でした。今も水害は結構多く発生していますが、昔は水害になると汲み取りトイレの便槽が溢れて、衛生環境がものすごく悪化して大変でした。
1959年の伊勢湾台風の時は、全国からバキュームカーが名古屋方面に集まって汲み取りに対応したという話を聞いたことがあります。今は水洗トイレなので、汲み取りトイレのような便槽から汚物が溢れるということはないのですが、かえって脆弱なシステムになっていまして、とにかくライフラインのどれかが止まると水洗トイレは使えなくなってしまいます。
阪神淡路大震災の時も比較的下水道は本管の方はあまり被害がなかったのですが、断水が長い間続いたために、水洗トイレが使えなくなってしまいました。東日本大震災の時は、例えば浦安や船橋など埋め立てでできた住宅地では、液状化現象により、下水道の本管どころかマンホール自体が地面からボコボコ浮き上がってしまって使えなくなるという事態も起こりましたし、津波によって仙台市などは、下水処理場が全部やられてしまって、復旧するのにとても長い時間がかかりました。そういうことを考えると水洗トイレというのは、災害に対してシステムとしての脆弱性があるのではないかと思います。
ですので、使えなくなることを前提に、災害の時のトイレの備えをどうするかということを、これはやはり人任せではなく、自分で考えてやっておかなければいけないと思います。水や食料の備蓄が必要だというのはよく言われますけれど、トイレもきちんと備蓄しておいていただかないと多分大変なことになるので、まずは携帯トイレが販売されていますので、そういうものを備蓄しておいてほしいと思います。
今は携帯トイレがありますが、神戸の震災の時には、そういう物がなかったので、ゴミ袋に新聞紙を入れてその中に用を足して、それをゴミとして収集したのですが、収集する時に汚物がゴミ収集車の中から飛び散ったりすることもあって、本当に大変でした。その経験から、携帯トイレというのが開発されて、今はいろいろな種類のものが出てきていますので、そういうものを家に備えていただくことが非常に重要ですね。
備蓄はどのくらい必要かというと、1人1日何回用を足すかを計算していただいて、回数が多い方も少ない方もいますし、製品にもよりますけれど、小用だったら2回ぐらい大丈夫だというのもありますが、大体1日5回使うとしたら、5袋を家族の人数×1週間分を備蓄しておいてほしいと思います。特に高層マンションでは、仮設トイレがあったとしても、高層階からトイレのために降りていくというのは不可能なので、防災用品として非常に重要なアイテムとして備蓄しておいていただければと思います。
※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。
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