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【防災インタビュー】コミュニティを守る「地区防災計画」vol. 1

今回の専門家

金 思穎(きん しえい)氏
専修大学 人間科学部研究員
専修大学 社会知性開発研究センター客員研究員
福岡大学法学部 非常勤講師

プロフィール

私は、専修大学人間科学部研究員として、コミュニティ防災、特に地区防災計画をテーマに研究をするとともに、福岡大学で防災関係の科目の非常勤講師もしています。また、地区防災計画学会の幹事、青年部長も務めています。

2008年の四川大地震の際に周りで多くの方が被災され、自分自身も避難生活をするという経験がコミュニティ防災を研究するきっかけになっています。そのため、自然災害による被害を小さくするにはどうしたらいいのか、特にコミュニティによる助け合いはどうあるべきかという観点から、コミュニティの現場での地区防災計画づくりの支援をしまして、その中で昨年、博士論文をまとめました。私の研究は、研究の成果を社会に還元することを重視しており、住民や行政の方と一緒に地区防災計画を作ることによって、コミュニティのリスクを軽減させ、人命を守ろうとしています。

「地区防災計画」への取り組み

私は、現在地区防災計画づくりの支援をしていますが、この「地区防災計画」というのは、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災の教訓を踏まえて、2013年に「災害対策基本法」という法律を改正することによって作られたコミュニティ防災に関する計画制度のことです。

町内会や小学校区のような単位のコミュニティの住民が、共助の観点から、相互に助け合い、自発的に作成する、この「地区防災計画」は、ボトムアップ型の計画で、川や山に近いとか、高齢者が多いといったような地域の特性に応じた防災活動を実践するために、住民の方が作るものとなっています。また、この地区防災計画では、単に計画を作るだけでなく、継続的に計画に基づく防災活動を実践して災害に備えることが重視されています。既に全国で4000以上の地区の住民が地区防災計画づくりに取り組んでいます。

この地区防災計画が全国で進んでいる理由のひとつとして、最近は大きな災害が続いている影響があると思います。2017年の九州北部豪雨、2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号、2020年の九州豪雨と大水害が続き、多くの犠牲者が出ています。近年の気候変動で過去の災害経験に基づく常識では対応できないような想定外の事例も増えてきており、災害への対応の難しさが痛感されるようになってきていますし、避難所でのコロナ対策のような新しい問題にも対応しなければならなくなっています。そのような中で人々の防災意識が全体的に向上しています。

例えば、首都直下地震が起こり、今いる建物が崩れて生き埋めになってしまったときは誰が助けてくれると思いますか? 実際に皆さんに聞いてみると、「自衛隊や消防の方が助けに来てくれるのではないか」と答える方が多いのですが、確かにテレビなどで災害救助の様子を見ていると、警察、消防、自衛隊の人たちが被災者を救出しているのを見ることが多いので、行政が助けてくれると思っている人が多いと思います。しかしながら、1995年の阪神淡路大震災の時に、地震によって倒壊した建物から救出された人の8割は、家族や近所の住民によるもので、警察、消防、自衛隊によって救出された人は2割にすぎませんでした。

結局、一番最初は、地域の人や家族が助けに回るということになります。実はテレビをはじめとするマスコミが災害現場に入るのは、災害の直後ではなく、少し時間が経過した時期になります。その時期は警察や消防が救助を行っている時期で、そのため警察や消防の救助活動がテレビに映ります。大規模広域災害が起こると、対応すべき場所も増えるため、警察や消防が現場に入る時期も遅くなります。そのような状況ではコミュニティの隣人や家族に助けてもらわないと助からないのです。ですので、まず大事なのは自分自身の身を守ること、そして周りの人と助け合う共助が大切です。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改訂して掲載しています。