中編では鈴々舎馬るこ(れいれいしゃ まるこ)師匠のインタビューをたっぷりとお届けした。
最終話となる後編では安生洋二さん、鈴木健さんも登場し、落語とプロレスの共通点など、熱い話をお届けしよう。
安生洋二さんがあの人はバケモノと呼んだレスラーとは?
――いや~実際に安生さんが目の前にいると緊張しますね。馬るこ師匠どうですか?
馬るこ師匠、以下馬るこ)
僕も緊張しちゃいますね。
安生さん、以下安生)
俺も人見知りだから・・・。そしたら、MEGA角ハイボール飲みます? すごい大きいのに480円。お得なんですよ。
じゃあそれで、と頼むと、海賊のジョッキみたいなでかいビアグラスが出てきた。それを黙々と飲み、ようやく少し落ち着く。
――ここではどれぐらい働いているんですか?
安生)週に4日。いつかは独立したいと思っているんだけど、どれぐらい経ったら独立できるだろう(笑)、よく分からないね。
――なるほど。安生さんといえば、色々な事件(グレイシー道場破り事件、前田日明襲撃事件など)がありましたが、プロレス人生を振り返って一番思い出に残っていることはなんですか?
安生)う~ん、若手時代のジムで練習して、たまに先輩に小遣いをもらっていた、あの頃かな。
――え、結構色々なプロレス史に残る事件もありましたよね
安生)ああいうのは、団体を背負って動いていたし、言われてやっていたりと、自分の判断でも無かったから、辛いな、大変だな、という気持ちの方が大きかったかな。それよりも強くなることだけに没頭していた若手時代の方がいい思い出が残ってるね。
――現役時代には猪木さんをはじめ、高田延彦さんや前田日明さんなど色々な人と絡みがあったと思いますが、印象に残っている人はいますか?
安生)高田さんと、武藤敬司さん、この二人はもうバケモン。あとはアントニオ猪木さんもとんでもないバケモノ。普通のプロレスラーはスター性とか、強さとかを表す五角形でいうと、出ているところと引っ込んでいるところがあるんだけど、この人たちは真ん丸。こういうバケモノみたいな人たちを見ると、自分が試合でどう輝くかよりも、最後に登場するメインイベントの人たちのために、どういう試合をすべきか、ということを考えるようになりましたね。
馬るこ)ああ、それは落語も一緒です。トリのすごい人がいて、そこに向かって、みんなで流れを作っていく。プロレスも落語も個人のようで、団体なんですよね。興行なので。
安生)あ~そういうもんですか。落語も同じなんですね。僕はたまたま強かったんですけど、それでもあの3人を見ると、自分が凡人だと痛感しましたね。
馬るこ)そうですね。みんな自分はすごいと勘違いして、この世界に入るけど、バケモンみたいな人を見て、自らの凡人ぶりに気付くんですよね。
――なるほど~。ちなみに、ここのお店にはプロレスラーも来ますか?
安生)たまに来ますね。新日の鈴木みのるも年に2回ぐらい来て「先輩おごってくださいよ」なんて、一人じゃなくて、後輩も連れて、俺よりも稼いでるくせに(笑)。あとはライオネル飛鳥さんとか年に1回ぐらい来てくれますね。普通に「お~ライオネル飛鳥だ」ってなって何も言えないですね。
――UWFのテーマの許可は誰にとればいいですかね
安生)カール・ゴッチ(プロレスの神様)じゃないですかね?(笑)オーナーの鈴木に聞いてみてください。
ここでオーダーストップが終わった鈴木健さんが合流。入れ替わるように安生さんが席を後にした。
鈴木健さんは、もともと高田延彦さんの後援会長だったが、UWFが解散したときに、高田さんに独立を促し、自らも経営に加わって、UWFインターナショナルのスタッフとして活躍した人物である。
――お店の客層はプロレスファンが多いですか。
鈴木健さん、以下鈴木)いやいや、地元の人の方が多いかな。プロレスファンはすぐ分かりますね。だいたい着ているTシャツで分かります。埼玉から毎週来てくれる人もいるし、けっこう固定のファンが多いですね。
――鈴木さんはもともと用賀の文房具店を営まれていたんですよね。
鈴木)そう、用賀で生まれ育って65年。もともとは地域の文房具店だったから、地元の小学校とかにも納めていて年商も何億とかあったよ。もう潰れちゃったけど。
――この市屋苑の場所は、もともとUWFインターナショナルの事務所だったんですか?
鈴木)そう。うちが持っていた場所で、ここにグッズを置いたりしていた。
――用賀はプロレス関係者が多いですよね
鈴木)用賀といえばUWFでレフェリーをやっていた北沢幹之さん、現役時代は魁勝司(かいしょうじ)さんも用賀で、その関係でいまの駅ビルが建つ前に、あの場所にプロレスの特設リングを作って試合をやっていたよ。
――全日本プロレスの川田利明さんのラーメン店「麺ジャラスK」も、砧公園の方ですよね。
鈴木)この辺は多いんですよ。世田谷全体に散らばっている感じだね。UWFインターナショナルの金原も用賀でかねはら整骨院をやっているし。
――いま振り返るとプロレスに関わった時間はどうでしたか?
鈴木)楽しかったね~。いま思い出しても楽しい思い出。
馬るこ)すいません。実はわたくしは、出囃子で「UWFのテーマ」を使っているんですけど、使用許可をとっておらず、できれば今日許可を取れればと思うのですが。
鈴木)嬉しいね。落語家でそうやって使ってくれる人がいるなんて。もちろん大丈夫ですよ。
馬るこ)ありがとうございます!
落語家と元プロレスラーとの夜を終えて
こうして、落語家と元プロレスラーの邂逅という不思議な夜が終わった。海賊のジョッキでハイボールを飲んで以来、時間が早く過ぎてしまい、いつの間にか時計は12時を回っていた。
安生さんと馬るこ師匠の二人が語った、凡人とバケモノの話は非常に興味深く、そのうえで落語で言えばトリ、プロレスならメインという「バケモノ」レベルの人たちのためにチームプレーで興行を成功させていく、という意外な共通点も知ることができた。
それにしても、安生さんは元プロレスラーと言われなければ分からないほど穏やかな方で、驚いてしまった。一方、鈴木健さんはとても65歳とは思えないほど力強いエネルギーを発していて、ああ、こういう人が一緒にやろうよ!と言ったから高田延彦さんは、団体設立を決めたんだな、とやけに納得してしまった。
さて肝心の安生さんの焼いた焼き鳥だが、これがぜんぶ美味しかった!焼き鳥以外も全てレベルが高くて、ボリュームもあり、酒飲みの心を分かっているメニューが揃っていた。
そして、安生さんのイチオシのMEGA角ハイボールはお得なので、おすすめだ。
我々との話が終わった安生さんはお客さんと記念撮影をし、トイレの壁にはあの「1億円トーナメント」の写真が飾られていた。
ここはやはりプロレスファンの聖地であり、もしもプロレスファンでなくても、十分楽しめるステキなお店だと思う。
用賀に来た際はぜひ立ち寄ってみてはいかがだろうか。
市屋苑
■住所
東京都世田谷区用賀4-14-2 2F
■電話番号
03-3707-3223
■アクセス
東急田園都市線用賀駅から徒歩約5分
世田谷とプロレスシリーズ
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1978年生まれの編集者。世田谷区用賀在住。子どもは長男(7歳)、次男(4歳)の二人。歴史と散歩と釣りが好き。最近は子どもと多摩川で釣りをしたり、プロレスの歴史を調べることにハマっている。