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空も飛べるはず

時々空を飛ぶ夢を見る。

その夢から覚めた時、もう少し見ていたかったなーと後悔する僕がいて、でもその日はなんだかずーっと眩しくていい一日になるんだ。

友人やらに空を飛ぶ夢を見るか?と聞いてみると大抵の人は
「見る見る!!」
「あれ超楽しいよなぁ?」
「あ、何回かは見たことあります。いいですよねぇ?」
「おー!ワシも未だに見るぞ」
と老若男女問わず人は空を飛ぶ夢を見るようである。そして、好きである。

しかし、僕の空を飛ぶ夢はまたみんなと少し違い、というか多分違うと思うのだけど、ものすごく低空飛行で、スローなのである。

地面からわずか30センチ辺りを歩くスピードより遅く飛ぶのだ。しかも飛ぶ時の助走はいつもスキップ。夢によってそのスキップのリズムなどは微妙に違うんだけどね。そのリズムをいかに早く習得するかがその夢の勝負所でもある。

低空低速なのは異様に残念なのだけれども、空を飛んでることには変わらず、好きな夢である。

夢の中で、「あっこれは飛べる夢だ!」と気付いて飛ぶ瞬間。これは何ものにも代え難い、非常に気持ちのいい瞬間である。(まぁ僕は低空飛行だけれども…)

だけど、この気持ちいい瞬間に似た経験を僕は現実の世界で知っている気がしてならないのだ。ずーっと思い出せなくてずーっと考えてたんだ。だけど知ってる感覚なんだ。
何だっけなぁと考えてたんだけど、じきに忘れて、お腹が空いたのでラーメンでも食べようかなぁとお湯を沸かす時に思い出した。

「あっ!自転車だ!!」

確か小学生低学年だったと思う。
初めて自転車に乗れたあの感覚。
「パパ!離さないでね!まだだからね!」(僕は小さい頃父をパパと呼んでた)
「わかってるよぉ?」
なんて後ろを振り返るとパパはニヤニヤして自転車を離して走ってた。
「おい!乗れてるじゃないか!おい!一人で乗れてるぞお!」
と言った瞬間にバランスを崩して転んでしまったけど、膝小僧についた土を払いながら僕は誇らし気持ちで笑ってた。

あの瞬間だ。

一度乗れてしまえばもうこっちのもん。ヨロヨロしながらも一人でいくらでも漕いだ。
「ねぇ!乗れてるでしょー!ねぇ!一人で乗れてるよー!」
「おー!乗れてるぞー!ヨースケかっこいいぞー!お兄ちゃんになったなー!」

どれくらい練習したのかはあまり覚えていないけど、何回も練習したっけ。

まずは補助輪を片方だけ外して、それから両方外して。両方とも外した時のあのたまらなく不安定な感じ。でもものすごく自分が成長したんだ。その時が来たんだ!という実感。

何度も転んだ。
泣いた。
擦りむいた。
カサブタ作った。
痣もつくった。
父や母にあたった。

だけど、乗りたいという気持ち、カッコよく乗ってる自分をイメージした。

多分、人生で最初の努力だったろう。そして初めての興奮、感動。

ヨースケ少年は少し大きくなったのだ。やり遂げたのだ。

そして、その坊ちゃん刈りのヨースケ少年はというと現在43歳。あの可愛いかった面影はもはや皆無で、頭は禿げ上がり髪も坊ちゃん刈りから坊さん刈り。

今、僕はタイとミャンマーの国境の街、メーソートのゲストハウスでこれを書いている。色々な成り行きを経て、予約制貸切カフェを営業していて、まぁ自営業ということもあり、毎年夏にひと月ほど店を閉めて旅に出ているのだ。

今年の旅はタイからミャンマーまで自転車の旅なのだ。あのヨースケ少年が人生で最初の努力で乗りこなすようになった自転車で旅に出てるのだ。

自転車の旅は海外は初めてだが、国内ではもう幾度となくしてきた。

小学校4年の時に千葉県の柏市に引っ越してきて、そこでできた友人がやたら自転車の上手な子と友達になった。

彼はウィリーといって前輪を上げて曲芸のようにして乗り回していた。その影響もあってか僕も自転車にのめり込んだ。毎日のように乗ってた。

やがて近所じゃ飽き足らず、隣の県まで遠征したり、房総半島へ自転車でキャンプに行ったりと。

彼との出会いが自転車との出会いだとずーっと思っていたのだが、それもあるがやはりあの最初に乗れた時の感動が大きかったのだと思う。

息子を持つ友人やらに「子供の自転車の練習ってやっぱり大変なのかぁ?」と聞いたりすると、「いやいや、ほとんど練習なしでいきなり乗れたよ!」 なんて話をよく聞く。

なるほど。最近じゃ三輪車なんかじゃなくてペダル無しの二輪車なんかを乗らせていると、すぐに自転車に乗れるらしく、親も自転車の練習に付き合わなくて済むようだ。

それもいいかもしれない。でもね、僕はあの大変だった自転車の練習がとても印象的なんだ。

幼い頃の父親との思い出だとまずそのことを思い出すんだ。父親との最初の特訓。キャッチボールよりも先だ。

最初全然出来ないことが出来るようになるってこと。僕はそれを自転車で覚えた。

あいにく僕に息子はいないのだけれども、この先息子という存在が出来たならば、僕は息子と自転車練習を惜しみなく付き合いたいと思う。何度泣いたっていい。いい迷惑かもしれない。

でもね。たったそんなことがあとあと大きな事になるかもしれないんだ。

自転車に乗れる瞬間。空を飛んでるようなあの感覚。息子に味あわせてあげたい。

羽が生えるんだぜ?!

息子よ!羽があればどこだっていけるんだぜ!

(あ、娘だったら二輪車で慣らちてからやりましょうね!ケガちたら危ないでちゅもんね。傷でも作ったらイヤでちゅもんね。)